ごあいさつ

このたび第11回がん分子標的治療研究会総会をお世話させていただくことになりました。この研究会は、基礎医学、薬学などの研究者が多く参加され、演題も基礎的研究が多いようです。今回、私のような臨床医が会長を仰せつかり、光栄に思いますとともに重い責任を感じています。近年、がん治療において分子標的薬の臨床応用が現実となり、今では分子標的薬でなければ、がん薬物療法にあらずの如き様相であります。そもそも分子標的薬とは、がん(細胞)の増殖・浸潤、転移、予後に関連する生物学的標的分子があり、それを標的として創られた薬剤であります。そして、in vivoにおいて抗腫瘍活性を認め、その活性が標的分子の機能抑制によって起こっていることを証明する、いわゆるProof of Principle(POP)研究が重要になります。このPOP研究は、基礎研究と臨床研究の共同作業であり、 本研究会の目指す重要なテーマの一つだと思われます。そこで今総会の主テーマを“POP研究―臨床からのメッセージ―”とさせていただきました。

現在、がんに有効性が認められている分子標的薬には、乳癌に対する抗HER2抗体のTrastuzumab (Herceptin)、B細胞性リンパ腫に対する抗CD20抗体のRituximab、非小細胞肺癌に対するEGFRのチロシンキナーゼ阻害剤 (TKI)であるGefitinib、Erlotinib、そして、BCR-Ablおよびc-Kitを標的としたImatinib (Greevec)が慢性骨髄性白血病とGISTに有効性が認められわが国でもすでに承認されています。さらに、抗EGFR抗体のCetuximab、抗VEGF抗体のBevacizumabが大腸癌、プロテアオソーム阻害剤のBortezomibが多発性骨髄腫、VEGFやPDGFなど複数の分子を標的としたSorafenibやSunitinibが腎癌に有効であることが示されています。これらのなかで、Trastuzumab、EGFR-TKI、ImatinibにおいてはPOP研究が進んでおり、標的とする分子の過剰発現や遺伝子変異の検索によって有効性が予測できるようになり、個別化治療の実践が可能になっています。

本研究会総会では、POP研究の成果を多く応募していただき、わが国におけるPOP研究の推進に結び付けるきっかけになることを期待しています。基礎と臨床が互いに議論を交わす場となり共同研究のきっかけにもなるようなプログラムを企画したいと

第11回がん分子標的治療研究会総会
会長 福 岡 正 博
近畿大学医学部堺病院長、近畿大学医学部腫瘍内科